夏季のオホーツク海および千島列島海域における植物プランクトンの基礎生産特性

摘要

オホーツク海は世界の海のなかでも有数の高い生物生産力を誇り，その基盤を支えるのは春から夏にかけての植物プランクトンによる高い基礎生産である~（1））。そして，その高い基礎生産はオホーツク海に特徴的な物理，化学過程によって支えられている。オホーツク海は，北半球で最も低緯度で結氷する海であり，冬季に厚い海氷で覆われる。その後，春季から夏季にかけての口射量の増加に伴い，海氷の融解が起こるとともにアムール川などの河川水量の増加により，オホーツク海表層に季節的な密度躍層が形成される。これにより，ト分な光が到達する表層において，植物プランクトンが滞留するための好ましい環境が形成され，大規模な植物プランクトンブルームが発生する~（1,2)）。アムール川河川水には，年間平均濃度で，無機態素が約20 pM，無機態リンが0.6?à0.5μM，ケイ酸塩が140±0.5μMが含まれていることから~（3）），アムール川の影響が及ぶサノ、リン島周辺海域では，アムール川が重要な栄養塩源となっている。オホーツク海に流入する他の水塊として，宗谷海峡を経山した宗谷暖流水が存在するが，宗谷暖流水が低栄養塩水であることから，植物プランクトンの基礎生産に対する影響力は比較的小さいと考えられる。しかしながら，その高塩分特性からオホーツク海の塩分収支や水柱の安定性に寄与することが指摘されている~（4））。オホーツク海は比較的高緯度に位置することから，夏季の長いII照時問もオホーツク海の高い基礎生産の一因であると考えられる。以上のように，オホーツク海には植物プランクト基礎生産過程に対してたいへん興味深い物理，化学過程が存在するが，現在，同海域での植物プランクトンの基礎生産とその支配因子に関する観測データはきわめて限られている。これは，オホーツク海の大部分がロシア経済水域内にあり，ロシア以外の海洋研究者がオホーツク海に入ることがきわめて難しい状況にあることが大きい。著者らは，2006年夏季にロシアの研究船クロモフ号に乗船する機会に恵まれた。そこでオホーツク海および千島列島海域における植物プランクトンの基礎生産特性に関して，これまでに得られた研究成果の概略を紹介する。