金属拡散研究のすべて（下）：メカニカル·スペクトロスコピーによる拡散測定

摘要

表題のmechanical spectroscopyとは，固体の内部摩擦すなわち力学的エネルギー損失を振動数あるいは温度の関数として測定する実験手法で，anelastic（擬弾性）spectroscopyともよばれる．体心立方金属中の侵入型溶質原子がスヌーク(Snoek)効果とよばれる擬弾性緩和現象を引き起こし，その緩和時間から拡散係数が求められることは，シュウモンの教科書をはじめとして多くの拡散に関する書物に述べられている．擬弾性緩和実験においては，通常のトレーサー拡散実験や核磁気共鳴，メスバウア効果，中性子準弾性散乱実験などでは測定が難しい10{sup}(-14)m{sup}2s{sup}(-1)以下の領域の拡散係数を求めることができるのが第一の特長である．また，放射性同位元素や粒子線ビームなどをそれ自体としては必要としないので実験的制約が少なく，さらに，スペクトロスコピーであるため複数の欠陥種（原子種）の動きをそれぞれ独立に観測できるという利点もある．