無剪定の街路樹は幻想-樹形を保ち緑量を増やす方策

摘要

主要な幹線道路に，計画的に並木を植栽して現代の街路樹の基礎を確立したのは，いまから約400年前の徳川時代である。 その主な目的は，「旅人への木陰の提供」「街道の目印」ということから発想され，幕府の重要な施策として実践された。 その目的は現在も変わりは無いが，土地利用や交通量，都市のスケールの点で当時とは雲泥の差がある。 とくに巨大化した都市の中で期待される，並木機能の多様性がいまの時代の特徴である。明治の時代になって，それまで「街道並木」と呼んでいたもののうち，「市街地に植えられた並木」をとくに「街路樹」　として区別するようになった背景には，都市域における街路樹の重要性と特殊性がある。そしていま，街路樹に対して最も期待されているのは，都市のヒートアイランド化を緩和する「冷却機能」，都市の景観を豊かな緑で個性的にする「美化機能」，集中的な降水による一過的な都市の洪水被害を緩和する「雨水涵養機能」の3点であろう。 それらの機能を満たすために街路樹が備えていなければならない共通した条件が「豊かな線量の確保」である。 そしてその課題は，樹木が「都市環境によるストレス」「限られた空間」「法的規制」など，多くの制約を受ける中で，いかにして「健全で，緑豊かな樹形」をつくり上げるか，という点である。ここでは，「健全性を保ち」「緑量を増やす」という点では理想的な，「無剪定による街路樹」が具体化できない理由を確認し，一方でこれに代わる次善の方策を検討してみる。