小脳におけるシナプス刈り込みと神経回路発達;

摘要

要約：生後間もない脳には過剰な神経結合（シナプス）が存在するが，やがて必要な結合は強められ，不要な 結合は除去されて，機能的な神経回路が完成する.この過程は「シナプス刈り込み」と呼ばれ，神経回路発達に おける普遍的現象であると考えられている.生直後に小脳のプルキンェ細胞は4本以上の登上線維によって多重 支配されているが，生後発達の過程で過剰な登上線維シナプスが刈り込まれ，生後20日までにほとんどのプル キンヱ細胞が1本の登上線維によって支配されるようになる.筆者らは，シナプス刈り込みのモデルとして，小 脳登上線維-プルキンヱ細胞の生後発達を研究している.筆者らの最近の研究によって，登上線維-プルキンェ細 胞シナプスの生後発達'刈り込みが4つの過程を経て完成することが明らかとなった.すなわち，1)1本の登上 線維の選択的強化と機能分化（生後3?7日），2)前期除去過程（生後7?11日），3)後期除去過程（生後12曰 以降），4)登上線維シナプスの樹状突起への移行（生後9日以降）である.この結果，2005年以前に知られてい たメカニズム（mGluRlシグナル，NMDA受容体活性化，平行線維シナプス形成）は，すべて3)後期除去過程 に関与することが明白になつた.一方，プルキンェ細胞のP/Q型カルシウムチヤネルを介するカルシゥム流入が， 上記の1),2), 4)に必須であること，GABA作動性の抑制が3)に重要なことが新たに明らかになった.この 事実は，登上線維シナプスの生後発達は神経活動に依存するが，発達時期によって異なる神経活動調節メカニズ ムによって制御されることを示している.