喫煙およびニコチンと精神神経疾患 ニコチン性アセチルコリン受容体の役割について

摘要

喫煙の精神機能におよぼす影響は古くから知られているが,近年,タバコ煙の主成分であるニコチンとその作用部位であるニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)の各種精神疾患における役割が多く報告されている.発病予防効果はパーキンソン病においてもっとも支持され,そのほか統合失調症とアルツハイマー病においても報告されている.治療効果(症状改善効果)は,パーキンソン病,統合失調症,トウレット障害,注意欠陥多動性障害において報告されている.うつ病では,ニコチンが症状を改善させるとの報告と,喫煙や禁煙がうつ病を悪化させるという報告の両者がみられる.不安障害では,強い病的な不安に対する効果は弱いものの,日常生活で生じる緊張の緩和のような温和な効果が期待される.nAChRのサブユニットとの関係では,α7nAChRの障害と統合失調症状のsensory gatingと眼球運動の障害が関係し,α7 nAChRの作動薬が不安の軽減とアルツハイマー病における神経保護作用を示すとされる.α4beta2nAChRに関しては,alpha4beta2サブユニットの作動薬に抗うつ効果,不安軽減効果,パーキンソン病と注意欠陥多動性障害の改善効果が報告されている.このほか,α4nAChRの障害が不安惹起とアルツハイマー病の脳病変に関与しているとされる.さらに,α6nAChRの作動薬に,パーキンソン病の改善効果が期待される.また,常染色体優性遺伝性夜間前頭葉てんかんでは,a4およびalpha4beta2nAChRの脱感作とてんかんとの関係が報告されている.今後, nAChRサブユニットの研究によって,各種精神疾患の病態解明や,新たな治療薬の開発が可能になることが期待される.