癌終末期に高カロリー輸液は有用か?

摘要

半年前より微熱および倦怠感が続くため精査目的で入院となった73歳女性.上部消化管内視鏡検査にて胃体下部から幽門前庭部にかけて広範囲に広がる潰瘍を伴った腫瘤性病変が認められ,生検の結果は高分化型の腺癌であった. CTスキャンでは肝や肺などに明らかな病変がなかったが,リンパ節は胃周囲に加えて腹部大動脈周囲や右鎖骨上窩にも転移と思われる所見が認められた.かなり進行した癌で手術をしても十分な予後は期待できないと家族に話たところ,現在は経口摂取可能でとくに消化器症状もないことから保存的に経過を追ってほしいとの希望があった. 4カ月ほどして病変による狭窄症状が出現してきたため,メタリックステントを留置し流動食程度であれば摂取可能となった.しかし,この頃より次第に食欲自体が低下し始め末梢静脈からの補液開始となったが,るいそうが目立つようになったため高カロリー輸液を行うべきかを検討することになった.一般に入院中の場合,経口摂取が長期にわたり困難であれば中心静脈より高力ロリー輸液を行うのが通常の流れではあるが,このようなターミナルステージにある患者には臨床的な観点からの適応があるのだろうか.高力ロリー輸液の合併症が前面に出たり,十分な栄養の供給により腫瘍の発育が増進されて病態が進行し,より早い死につながってしまうことはないのか.この疑問の答えを見つけ出すために今回は高カロリー輸液と腫瘍との関係について調べてみることにした.なお,高カロリー輸液は用語としてtotal parenteral nutrition (TPN)で統一する.