蚊媒介性の熱帯性ウイルス疾患－デング出血熱の発症機序をめぐって－

摘要

蚊媒介性の熱帯性ウイルス疾患のうち最も重要なものは，デングウイルス感染によるデング熱（DF），デング出血熱（DHF）である．世界保健機関（WHO）では毎年全世界で5，000万人の感染者が発生し，そのうち50万人が重症のDHFを発症するとの見積もりを立てている．DFは古くから知られている急性の発熱疾患であり，長くても1週間程度で後遺症もなく完治する予後の良いウイルス感染症であるが，DHFはときには致命率が20％を超える重篤な病態を示し，地球温暖化とともに北半球では北上を続けている．本邦での国内流行は近年経験されてはいないが，熱帯地域への旅行者が帰国後発症する，いわゆる輸入症例が多々経験されており，その中にはDHFによる死亡例まで報告されている．DHFの発症機序をめぐっては従来から多くの仮説が提唱されてきたが，近年免疫学や分子生物学の発展によりさらに多くの知見が蓄積しつつある．この総説では，最近報告された多くの研究成果の中から，特にDHFに特徴的な血管からの急速な血渠漏出に関連する知見について概説する．