幹細胞研究と臨床利用の進歩序文

摘要

近年，有効な治療法の無い疾患や機能障害性の強い傷病等に対する新たな治療法として，再生医療技術の臨床 応用が進められている.これまでに国内外において，骨髄細胞や組織内幹細胞を用いた関節軟骨破壊や神経損傷, 心不全に対する再生医療が試行され，有効性を示した報告も次第に蓄積されてきた.しかし，移植用幹細胞の入 手上の問題や，移植細胞'組織の量的，質的問題の理由により，いずれも治療法として普及するには至っていない.こうした状況を打開すべく様々な取り組みが続けられる中で，一つの大きな転機は言うまでもなく，人工ヒト多能性幹細胞(iPS細胞)の登場であった.以後，多くの研究者による精力的な研究により，様々な組織への幹細胞分化誘導技術が新たに開発され，多様な機能細胞を安定的に，且つ高効率に入手することが可能となってい る.現在更に，より確実な細胞機能の発現，より高い安全性を目指した幹細胞分化誘導技術の開発研究が進められ ており，一部の疾患では臨床試験が開始されるに至っている.その一方で，患者由来細胞から樹立された疾患特異的iPS細胞を利用した研究では，特に難病について疾患機序の解明や，創薬への応用研究が注目を集めている.