シンポジウム4「ARTに関連した最新技術」3）男性不妊症治療と精子形成遺伝子

摘要

顕微授精（ICSI）に代表されるARTによる不妊治療の発展は今日の生殖医療の革命的な特徴といえる．しかしながら生殖医療が目指すべき最終的なゴールが不妊カップルの生殖機能を改善し自然妊娠を達成することである以上，これまでの男性不妊症治療は前近代的で限られたものといわざるを得ない．唯一，顕微鏡下に精細管を観察し精巣内精子を獲得するmicrodissection TESEはsperm retrievalrateを約40％にまで改善した．しかし，経済的および肉体的負担にかかわらず，多くの患者が精子を獲得できず，またその後のICSIの成功率も決して高いものとはいえない．根本的な問題は多くの男性不妊症が原因不明である特発性という範時に分類されていることである．我々はこれまで造精機構および精子機能の解明のため，精巣生殖細胞に発現する遺伝子の系統的な単離と解析を行ってきた．これにより精子形成に関与しその機能に重要な役割を担っていると考えられる新たな遺伝子群（精子形成遺伝子）を同定してきた．これまでの精子形成遺伝子の解析により，最近，精子の新しい生理機構が明らかになってきた．われわれはこれを利用して精子の運動率や受精機能を改善し，人工授精（AIH）や体外受精（IVF）の成績を改善できる可能性につき検討を行っている．本シンポジウムではこれら最新のデータを紹介するとともに，精巣内精子の分化誘導の可能性についても考察する．