小笠原諸島の自然遺産が直面する課題とその対応

摘要

小笠原諸島は2011年に，日本では第4番目のユネスコ世界自然遺産に指定された。 ここではその指定の意義といくつかの課題およびその対応について考えてみたい。こ の諸島は日本列島の南方約1,000kmに点在し，北から聲島列島，父島列島，母島列 島と続くが面積的には小さく，陸地の総面積は24km2程度であり，都心の千代田区 の2倍ぐらいである。さらに南に硫黄島，北硫黄島，南硫黄島を含む火山列島がある。とラしょ気候帯は亜熱帯に属し独特の島嶼生態系が見られ，生物相としては多くの固有種や亜 種が生息している。特に維管束植物と陸産貝類におし、て固有率が高く，固有率は木本 類で約7096にも達していて，一般受けする珍奇な動物はいないが，"東洋のガラパゴス" とも呼ばれ，生物の種分化を研究する上で貴重なところと言える。そのような事情で， 日本に復帰後間もない1972年に国立公園に指定され，一部の地帯は第1種特別地域 として厳重に保護されてきた。とりわけ南硫黄島は最も保全度の強い原生自然環境保 全地域となっている。私は日本復帰後間もない40数年前の1970年頃から10年間ほ ど，この小笠原諸島に毎年のように渡航して動物の調査をした（当時，私は大学院生 そして助手として東京都立大学にいた。教授が東京都から委託研究を受けていたのだ つた)。それから30年ほど経った2011年から2012年にかけて，放送大学の授業科 目作成のために，3回ほど映像取材をした。また，日本森林技術協会が行っているァ カギ対策事業の現±也視察に参加した。私のささやかに経験したことをふまえて，ここ では特に小笠原諸島で現在行われている自然再生事業が持つ意味を考えてみたい。