ゥシにおける胚の生存性と子宮環境

摘要

牛の人工授精による初回受胎率は年々低下の一途を迪り、平成25年には乳用牛精液を使用した 人工授精で44.3%、肉用牛精液を使用した人工授 精でも52.8%まで下落している〗)。一方、胚移植 における体内受精卵凍結1卵の受胎率は約20年 間45%前後を安定して推移しており、人工授精 に見られるような顕著な低下は見られないものの その受胎率は決して高いとは言えない2)。改めて 言うまでもなく、このような牛の低受胎には様々 な要因が複雑に絡み合つており、その主なものと して排卵障害や受精の失敗、もしくは胚死滅が挙 げられる。これまでの報告によると牛の人工授精 における受精率は90%以上であり3'4)、人工授精 による不受胎の主な原因は卵管や子宮内での胚の 発生停止、死滅が考えられる。胚移植においては 生存している胚を子宮内に移植するため、排卵障 害や受精の失敗に加えて卵管での胚死滅について も無視することが出来る。したがって、胚移植に よる不受胎の場合には子宮内での胚死滅が主な原 因となるため、胚移植は子宮内での胚生存にのみ 焦点を絞り解析することが可能な低受胎要因解明 のための有効なツールでもある。そこで本稿では、 牛低受胎問題の解決に向けて、胚移植における胚 の生存性に焦点を絞り、胚の生存性と子宮環境の 関係について考えてみたい。