フィールドワークの意味するもの-社会人類学の立場から－

摘要

農業土木学において今日強い関心がよせられている「フィールド科学」というものについて，私はその意味がよく理解できていないままに，この小論を記すことに伍悦たるものがあるが，フィールドワークというものを必須の前提として発達してきた社会人類学の立場から，フィールドの意味するものについて述べてみたい。 社会人類学においては，現実に生き生活している人々を対象とした研究であるために，フィールドは自然科学者の実験室に当るという立場に立ち，1人の研究者がコントロールできる範囲の比較的小規模の集団を対象として設定し，そこにみられる入々の行動，考え方を長期間にわたって克明に観察調査し，それによって得られたさまざまなデータから一定のシステムを抽出し，そこに内在する問題を提示することを主眼としている。 仮説があって，それをテストしたり立証するのではなく，経験主義に立った蹄納的な方法によるものである。