有機栽培水田で冬期湛水は土壌養分とメタン放出にどんな影響を与えるか？

摘要

冬期湛水は，作物を作付けしない冬期間に湛水す る管理法であり，古くは江戸時代の「会津農書」'> に「田冬水」という表現で登場している.藤原と庄 子は，会津農書の冬期湛水は泥水を水田に供給する ことによって肥沃度を高めることを目的としてお り，今日の流水客土 （土壌を流水に混入し，自然流 下によつて行なう客土法）に相当するものであった と解析している2).近年の我が国における冬期湛水 の目的は，雑草抑制や土壌を柔らかい状態に維持し て不耕起栽培を実施しゃすくするなどの営農上の 効果を期待する場合3)や水鳥を保全するために水 田を自然湿地の代替として利用することである.宮 城県大崎市の蕪栗沼周辺の水田では天然記念物で あるマガンゃハクチヨウなどの水鳥のねぐらを創 出するために冬期湛水を行っている4'5).特別天然 記念物であり，一度は絶滅したコウノトリとトキを 自然に戻す取り組みが兵庫県豊岡巿6)と新潟県佐 渡巿7)で取り組まれている.動物食で一年中，里で 暮らすコウノトリやトキが生存し続けるためには 多量のエサが必要である.水田はエサ場として非常 に重要な役割を担っていることが豊岡盆地でサギ 類を指標にして明らかにされている8).これらの地 域では，水田への冬期湛水は力エル類やドジョゥな どの生息場所（エサ場）としての条件を向上させる 目的で行われている.農薬不使用や冬期湛水がサギ 類とそのエサ動物（ドジヨウや力エルなど）を豊に すること4)，水田のイトミミズ類9)，底生動物，昆 虫類，両生類（力エルなど）の増加に寄与している ことが報告されている5'6'7'1，また，ラムサール条 約湿地の片野鴨池（石川県加賀巿）周辺においては，マガモなどのカモ類が冬期湛水水田を採餌場所と してより強く選択することu)，茨城県のような冬期 乾田地帯に湛水田を設置すると，水鳥だけでなく陸 鳥も採餌場所として利用し，鳥類の越冬環境の機能 を高めること1D)が明らかにされている.海外では スペイン，アメリカ合衆国，韓国，中国などで冬期 湛水が行なわれている.例えば，スペイン北東部の 地中海に突き出ているエブ口デルタはラムサール条約湿地であり，その野鳥特別保護区周辺では，EU の共通農業政策による助成金の効果もあり，水鳥の 生息環境を向上させるために冬期湛水が広い範囲 で実施されている12).ァメリ力合衆国力リフォルニ ァ州では1991年より水田でのわら焼きが禁止され， その代替わら処理法（わらを分解するために湛水す る）として冬期湛水が実施されており，冬期湛水に よって水鳥の飛来数が増加している|3'|4).