細胞質工学的手法を用いたネギ属栽培種の育種－野生種の細胞質を利用したネギおよびシャロット雄性不稔系統の育成－

摘要

ネギ(Allium fistulosum L）は日本、中国をはじめとする東アジアにおける重要な野菜であり，とくに日本ではタマネギ（A. cepa L. Common onion group）が導入される以前から栽培が行われてきた．ネギを生育特性からみると，冬季に休眠する夏ネギ型と休眠しない冬ネギ型に分けられ，夏ネギ型は耐寒性が高く，冬ネギ型は暖地に適応しており低温伸長性がある．用途別には菓鞘部を軟白して利用する根深ネギ用品種と緑色の葉身を利用する葉ネギ用品種があり，生育特性および用途から，夏ネギ型の加賀群，冬ネギ型で葉ネギ用の九条群，どちらかといえば冬ネギ型で根深ネギ用の千住群に大別される．加賀群は関東，北陸，東北の一部で栽培され，九条群は主に西日本で栽培されている．千住群は関東地方を中心に栽培されていたが，現在では西日本でも栽培が盛んである，ネギは他殖性が強く，集団採種により維持されてきた在来品種は遺伝的に雑ばくであることから，品質の均一化が重要課題の一つとされてきた．F_1品種は有用遺伝子の集積が可能かつ高度の均一性を有するため，その育成のメリットは非常に大きい．ネギの小花は完全花であるため，F_1採種を行ううえで種子親として用いる雄性不稔系統が不可欠である．一方，タマネギと同種に分類されるシヤロット（A．Cepa L．AggIegatum group）は小型かつ分球性の鱗茎を形成し，熱帯の低緯度地域における重要な野菜である．一般的に鱗茎により栄養繁殖されており，交雑育種は行われていない．種子繁殖性Flシャロット（True seed F_1 shallot）の開発は品種としての遺伝的変異の拡大が期待できると共に，貯蔵、輸送面のコスト削減につながることから，その意義は非常に大きいと考えられる．