農産物需要の末端を形成する家計食料需要(以下,食料需要)に対して実証分析を行う際,しばしば需要関数の推定による接近がとられる.需要関数は本来,消費者の最適化行動理論仮説に依拠するものであるから,分析の信板性を保持するための前提として,理論仮説と現実の食料需要との整合性を確認しておくことは重要であると考えられる.従前,食料や農産物の需要を扱った実証研究の大部分では,分析対象品目に関する需要関数を単一推定するという方法がとられてきた.しかし,単一推定においてほ,予算制約をはじめとした制約をモデルに組み込むことができず,理論と実証とのつながりは希薄である.それに対して,予算制約をモデルに内包し,さらに他の制約を付加することも可能な方法として,需要体系の推定による食料需要分析が澤田[20][21][22],澤田[18],Mori and Lin[13],Sasaki[17],松田[10]等によって試みられてきた.これらの研究では,いくつかの制約に関して仮説検定が付随的に行われているが,仮説の検証に焦点を当て,制約の妥当性について詳細に吟味するという視角からの食料需要分析は十分になされてきたとは言い難い.
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