和歌山県における獣害対策の実態と農家および非農家の意識

摘要

農林水産省によると，平成17年度の野生鳥獣類による農作物被害面積は約12万ba，被害金額は約187億円に上り，特に獣類による被害金額は5年前と比べて約12％しか減少していない。 また被害は農作物の食害に留まらず，畦畔の崩壊やビニールハウスの破損など生産基盤への影響も指摘されており，獣害を抑制、防止することは農山村地域にとって無視できない大きな課題と言える。 しかしわが国の農村地域では，少子、高齢化の進行と農業収入への依存度の低下によって，農地の保全のみならず，集落の維持そのものも困難なところが増えつつある。 島根県で獣害の実態を調査した竹鼻らの研究によると，獣害対策よりも担い手不足や農業収益の改善を重要視している農家が多いとの結果も得られており，こうした状況では個別の農家の対応だけで持続的かつ効果的な獣害対策を行うのは困難である。 したがって，今後獣害問題を解決するには獣害が発生する農村の地理的及び社会的状況，さらには農家の営農に関する意向や非農家も含めた住民全体の獣害に対する意識を把握し，今後の土地利用や営農に関する将来像を明らかにした上で，非農家も含めできるだけ多くの住民を巻き込んで集団的に獣害対策に取り組むことが必要である。 またそのためには，野生動物保護の観点と集落の特性や農家の特徴を踏まえた地域振興の観点を両立させた体系的な獣害対策の立案手法の確立が希求されている。