黒川農場自然生態園における埋土種子

摘要

森林の表土中には発芽力のある植物種子が多数埋蔵されており（Brown&Oosterhuis 1981)，伐採や山火 事にあつた森林跡地が比較的早期に緑に覆われるの は，根株からの萌芽とともに，埋土種子の発芽と成長 によるところが大きい（梅原.永野1997)。こうした 埋土種子は土壌シードバンクとも呼ばれ，温度，光， 乾燥，化学物質などの環境刺激によつて休眠が打破さ れれば発芽する（鷲谷1989)。埋土種子の発芽試験に より出現した植物種を同定し，その生育特性を調べることで過去の土地利用状況も推測することが可能である（浜田.倉本1994 ；栗原ら1999; Bossuyt & Hermy 2001; Van Calster et al.2008)。土壌シードバンクは親植物の有無，鳥や風による散 布，さらには傾斜，土壌の条件，林地の経歴，隣接地 の土地利用などによって影響を受けると考えられ，斜 面方位や地形区分などの違いとともに，わずかな場所 の違いによっても，その分布はかなり不均一なものに なる（Kjellsson 1992; Olano et al. 2002; Plue et al. 2010)。他の多くの研究からも埋土種子の個体数と出 現種数は地域の微地形?立地条件による影響を受ける とことが指摘されている（浜田.倉本1994 ；山瀬ら 2004, 2005 ；山瀬'関岡2007)。これらのことから， 特定の地域における土壤シードバンクを把握するためには様々な微地形から多くの土壌サンプルを採取する 必要があると考えられる。