日本の林業はトンネルを抜けられるのか－『平成一四年度森林、林業白書』を読んで考えたこと-

摘要

四月中旬に公表された平成一四年度『森林、林業白書』は、平成一三年七月に成立した「森林、林業基本法」（以下新林基法）に基づく新たな林政展開の実質初年度の自書である。新林基法は、条文上は森林の多目的機能の持続的発揮を主目的としているが、底流には小泉内閣の構造改革路線の大きなうねりの中で、林業部門への一層の競争原理の持込みと林業行政（補助金）の一層の効率化の狙いが横たわっている。法の成立過程で、従来の林業活動を通じて森林の適正管理を実現するという予定調和論はもはや〝破綻した〝とする論調が展開され、木材生産は森林の多面的機能の一つにすぎないものとされた。 そこでは、地球温暖化防止など国際的な環境保全への協調対応を最大の理由として、森林の多面的機能の維持発揮を最優先し、それに貢献できる意欲あるの林業経営に助成を集中していく図式であった。またそこには京都議定書（平成九年一二月採択）以来、CO2の吸収源としての森林の重要性が俄に認識され始めた状況もあった。 しかしそれは、WTO体制の下での外材支配と国内林業衰退を固定化するための言い訳のようにも見えた。 特に人工林の間伐推進は、新林基法成立以前から林政の中心的課題の一つであったが、間伐の意味づけは木材生産のための必要な森林施業よりもバ　 水土保全など森林の公益的機能の維持に比重が移動していった。