馬診療における抗菌薬療法

摘要

馬診療における抗菌薬療法は，牛診療において現在実施 されている抗菌薬療法に比べてきわめてシンプルである。 「馬診療における抗菌薬療法はシンプル」という言葉から は，「馬診療では抗菌薬についてあまり研究や調査が実施さ れていないのか？」と思われるかもしれない。しかし，実 際には様々な感染症に対して，原因菌の特定とその薬剤感 受性試験が実施されている。例えば，筆者の専門である肺 炎の原因菌特定は，人医療のそれよりも進んでいるかもし れない。人医療においては，喀痰の解析による肺炎原因菌 の特定がほとんどであり，気管支肺胞領域の情報を直接得 ることができる気管支肺胞洗浄液の解析が実施されること はきわめて少ない。しかし，馬医療においては，日本中央競馬会(JRA)を中心に，肺炎発症馬からの気管支肺胞洗浄 液の採取が一般的な臨床検査として実施されており，その 解析により肺炎原因菌を特定するとともに薬剤感受性を明 らカゝにし，即座に抗菌薬療法にフィ一ドバックされている。 その結果，臨床症状の変化に一喜一憂することなく原因療 法を実施することが可能となった。それにより.馬におけ る抗菌薬療法は，「原因菌の特定，薬剤感受性の解析—シン プルな抗菌薬療法」となっている。