呼吸器の感染防御機構1

摘要

呼吸器系とは，喚気とガス交換にたずさわる臓器である5 そのため，気道および肺は生体外から侵入する感染病原体， 環境因子に直接さらされるため，これらに起因する感染症. 局所炎症，アレルギーの発症を防ぐための感染防御機構が 備えられている。この感染防御機構は，種々の防御ライン を幾重にも張り巡らせたきわめて精巧なシステムである。しかし，牛複合性呼吸器疾患（BRDC ： Bovine Respiratory Disease Complex)ではこの精巧な防御機構に対して，ウイ ルス，マイコプラズマ，環境性要因，ストレスによる免疫 抑制が波状攻撃を仕掛けて感染防御機能を低下させ，健常 な子牛であれば感染が成立しにくいパスッレラやマンへミ ァなどの細菌が気道内に定着して増殖をする。当然ながら， 気管支炎を肺炎と鑑別できずに肺炎治療と称していたずら に殺菌作用の強い抗生物質を予防的に投与すればこの防御 機能も障害を受けるので，獣医師の安易な抗生物質投与も BRDCの感染成立になくてはならない重要因子である。つ まり.我々はマイコプラズマや感染病原体，ストレスにつ いて論じる前に，牛の正常な感染防御機構を理解し，この 感染防御機構をうまく活用した呼吸器疾患の治療と予防を 実践すべきである。今回から4回にわたり呼吸器系の感染 防御機構について紹介する。