着床と妊娠

摘要

胎盤は晴乳動物特有の胎子保育器官であり，妊娠の成立、維持に不可欠である。 妊娠の成立は受精胚が子宮に到達し，胚の最外層にある栄養膜細胞層（Cytotrophoblast，栄養膜外胚葉ともいう）の細胞と子宮上皮細胞との接着，融合に始まる。 両者の凝着から胎盤が形成されるまでの期間を着床（implantation）と呼ぶ。 近年の分子生物学や生殖科学研究の発展は妊娠生理機能についても数多くの新しい情報や技術をもたらしたが，妊娠成立機構，特に着床，胎盤形成の領域には未解明の問題がまだ数多く残つている。 受精から着床までの時間は動物種により異なり，マウスでは4日，ウシでは30日とその差は大きく種特有の期間をとる（表-1)。 これらの期間は，動物種でほぼ一定と考えられるが，厳密には研究手法の進展による判定精度の差により変わる。例えば，近年多くの分野で利用されているRT-PCR法による特異遺伝子の発現動態の検索から，ウシでは妊娠26日の胚と子宮上皮の接着部位の子宮内膜側に受精胚由来の遺伝子を検索できることから，着床時期はこれまでの肉眼的な検索による報告よりも早期に始まると考えられる。母体の子宮内勝と受精胚の最外層栄養膜細胞層の接着様式は動物種により異なる。 ブタやウマのように母体および胎子例の細胞が並列対略して規則的に整列し，融合や侵入が認められをいものから，ヒトやラット，マウスのように栄養膜細胞が母体の脱落膜層に深く侵入し，子宮の基底層に達する形式まで接着の程度には大きな相違がある（図-1)。 その様式の差異は胎盤の形態と母体一胎子間の栄養，老廃物の交換方法に反映する。 一般に浸潤性が高い胎盤では脱落膜が母体側に形成される。受胎の成立には受精胚とその母体子宮内勝との同調性が重要である。 この過程にはホルモンなど古典的な内分泌（endocrine），サイトカインや成長因子と呼ばれる傍分泌（paracrine）および自己分泌型（autocrine）要因が複雑に関与している。