糸状菌における細胞壁構築シグナル

摘要

真菌の細胞は，単細胞生物である出芽酵母をはじめ，糸状菌，担子菌などの多細胞生物まで細胞壁と呼ばれる強固な構造によって覆われており，複雑かつ多様な形態をとっている．真菌細胞壁はグルカンやキチン，マンナンなどの多糖を主要構成成分としており，これらが複雑に入り組んで構成されている．細胞壁は細胞を保護するだけでなく，細胞の形を維持、規定し，細胞膜に存在するタンパク質と共同して細胞外界からの刺激や情報を最初に受け取り，細胞内に選択的に伝達する役割をも担っている．また真菌には，動植物に感染する酵母、糸状菌が含まれ，それら真菌類と宿主との接触は，真菌の細胞壁を通じて起こることから，宿主一感染菌応答に細胞壁成分は重要な意味をもつ．さらに，真菌の細胞壁はヒトや植物に存在しない構造体であることから，農薬や抗真菌剤の薬剤標的として注目されており，実際に細胞壁合成阻害剤が優れた抗真菌剤として上市されている．これらを背景に，糸状菌の細胞壁構築に直接関与する酵素やそれらの遺伝子のみならず，外界刺激に応答して細胞壁構築を制御するシグナル伝達系にも注目が集まっている．本稿では，近年公開された糸状菌ゲノム情報を活用して進展している，糸状菌の細胞壁構築に関わるシグナル伝達系の解析を，Aspergillus属糸状菌と動植物感染真菌を例に紹介する．