特別企画懸崖盆栽の謎

摘要

盆栽界で樹形名称としての懸崖の名は直幹などとともに古くから知られ、明治期の盆栽図にも懸崖物はしばしば登場している。盆栽樹形としての懸崖をいつ、誰が、創始したかは不明だが、かの小林憲雄氏は文人画と狙いを同じくした南画趣味的文人盆栽の盛んだった頃に懸崖手法が起こったと考え、その考案期を明治10年から25年の問と推定している。 江戸期の浮世絵などの鉢植の図に石付は早くからあったが、懸崖の構図は見られず、明治10年頃までの文献にも懸崖形態の盆栽の図や「懸崖樹形」という概念はない。しかし明治25年の美術盆栽大会の図譜には懸崖形態の盆栽があるからだという。 ただしこの図譜に「懸崖」という説明はなく、懸崖物とか懸崖盆栽の名で呼ばれていたかどうかはわからない。