遺伝的不安定性：発がん性突然変異の生成機構

摘要

従来から発がんはinitiation，promotion，progressionの過程に大別されてきたが，これらのいずれにも突然変異の集積が伴っている。 動物を用いた実験発がんでなく，普通のヒトにみられるがんの突然変異の多〈は自然突然変異で生じたものと思われる。 そして紫外線やその他の特定のDNA損傷をもたらす物質によるDNA損傷，その修復，さらに突然変異の生成機構はこれまで活発に研究され，また多くの成果を上げてきた。 しかしながら自然突然変異生成の機構については，いまようやく研究が始まったところといえよう。 ともあれこれまで調べられている通常の遺伝子における自然突然変異の頻度は10~(-5)程度である。 それ放このような突然変異頻度を前提とする限り特定の細胞における複数の突然変異の集積は不可能であるかに思える。 しかしこれを可能にするものに2つの機構が考えられる。 一つは標的細胞の数の増加で，がん化の初期過程で生じた変異により組織の増殖抑制機構を逃れた細胞はその数を増やし，次の段階の突然変異をもつ細胞の出現頻度を高める。 第二の機構としては細胞の突然変異頻度の上昇である。 これは遺伝的不安定性と呼ばれており，さまざまな機構により一過性にあるいは長期にわたって突然変異頻度が高まる現象をいう。 この遺伝的不安定性は，がん化の初期過程から後期の進展の過程まで大きな役割を果たしているものと思われる。