水稲における種子伝染性病害防除の現状と種子無病化への試み

摘要

近年イネ病害の発生様相が大きく変化した。その最も大きな変化は，種子伝染性病害の大幅増加である。 その原因の第一は，1970年以降の機械移植による箱育苗の普及で，多くの病害の発生増加をもたらした。 第二に，近年のコシヒカリをはじめとする病害抵抗性が弱い良食味品種の作付け急増，第三に適地適品種作付体系の崩壊，第四に作期の早期化，第五に薬剤耐性菌の発生，第六に種子の広域移動の普遍化，等である。現在，イネの重要病害として，いもち病，紋枯病，ごま葉枯病，ばか苗病，苗立枯病，もみ枯細菌病，苗立枯細菌病，褐条病等があるが，このうち種子伝染性病害でないものは紋枯病，苗立枯病だけで，特に細菌性種子伝染性病害は効果の高い薬剤が少ないこともあり，汚染地域，汚染程度の拡大が進んでいる。 これら種子伝染性病害を完璧に阻止するには種子の完全無病化，いわゆるクリーン種子を利用するしかない。 現在水稲で実用化している無病種子はないが，最も効果的な環境保全型防除技術として，種子の無病化研究を進めようとする動きは芽生え始めている。ここでは，種子伝染性病害の現段階での最新防除技術，種子の保菌率低減技術，および開発中の無病化技術について概要を述べ，今後の無病化技術開発研究の参考としたい。