牛の体質制御によるグラスフェッド型牛肉生産システム再構築

摘要

ウシは本来，家畜としてヒトが消化できない粗い繊維質を分解し，草資源からタンパク質源としての食肉を生産し，それをヒトに供給するという重要な物質循環機能を担った草食動物である。近年，輸人飼料に過度に依存している日本の牛肉生産はBSE（牛海綿状脳症）等の発症に見られる食の安全性に関する問題，集約的経営形態から排出される大量の糞尿と，それに関わる環境問題，集約的な飼養形態における家畜福祉等の多くの問題を抱えている。 特に日本の牛肉生産では肉牛1頭の肥育に4～5トンの濃厚飼料を必要とするが，その穀物飼料のほとんどをアメリカ等の諸外国からの輸入に頼っているのが現状である。 このような輸入飼料依存型の畜産では，将来BSEだけでなく，未知の伝染病が侵人してくる危険性は大きく，食の安全性への不安は強く残る。 日本では，年間に100～120万頭の和牛が生産，出荷されているので，ウシの飼料として相当量の‘‘穀物”が消費されている。 ウシの飼料利用効率は低く，採食したものの9割以上は，糞尿として排出されている。 これは自然界では，植物資源の有効利用という点で，すなわち，植物から栄養の1割弱を吸収して，その多くを大地に返すという物質循環機能としては，優れていると、言える。しかし，輸入濃厚飼料を給与する場合，計算上，採食された穀物の多くは排出されていることとなり，年間400万トン以上の糞尿が日本の国土に蓄積されていることになる。 この糞尿の堆肥化等の処理には莫大な費用と労力が費やされている。 他の家畜の糞尿を含むと年間1000万トン以上の糞尿となり，いくら堆肥化したとしても，日本の耕地面積に対して過剰といえる。 家畜糞尿の燃料化に関する研究も試みられているが，いかに水分含有率を減少させるかなど問題点が多い。 発展途上国に目を向けると国連食糧農業機関（FAO）の調査では現在，世界中で食糧不足に悩む人は8億人以上であり，米国の研究所の2003年度の調査では世界的な異常気象により4年連続して世界の穀物生産量は消費量を下回り，世界的な穀物不足に陥っていることが報告されている。この皺寄せは発展途上国における餓死者の増加，特に年間500万人以上の子供の餓死者という数値によって顕著に示されている。 日本は，このような状況をしっかりと認識し，先進国として世界的な食料バランスを考慮し，少しずつでも輸入飼料依存型の牛肉生産システムからの脱却を計り，国内の草資源を活かした安全で良質かつ低コストな牛肉生産システムにシフトする必要があると思われる。