精子が卵を目指すしくみ—運動の方向転換を司るタンパク質「カラクシン」

摘要

ォスから放出された精子は，鞭毛によって泳ぎ，卵に到達する。その運動 はランダムでなく，卵から出る物質によって誘引される。この「走化性」と いう現象は，ほとんどの動物および植物で見られ，受精を効率よく行わせ るうえで重要である。最近，筆者らがホヤから発見したカルシウム結合タ ンパク質「カラクシン」が鞭毛運動の分子モーターに作用し，精子の走化性 を司ることが明らかになつた。精子は受精のために特化した細胞で あり，その使命はォスの遺伝情報を子 孫へと伝達することである。卵と精子 が出会い受精が成立するためには，精子力雄の個体から離れ，体内の環境と はまったく異なる環境を突き進んでい くこと力ん必要となる。この精子遊泳を担うのが，精子の尾部（鞭毛*)である。鞭毛の内部には，9+ 2本の微小管*か らなる「軸糸」と呼ばれる構造が貫いている。9本のダブレツト微小管には， 運動の力を発生する分子モーターであ るダイニン*や，それを調節すると考え られているラジアルスポーク力結合し， 中央には2本のシングレツト微小管力、ら なる中心対複合体が存在する（図1)"。 この構造は，原生生物や気管支などの 上皮細胞に生えている繊毛*にも共通 する構造であり，精子の遊泳のみなら ず食物の輸送，異物の排除など水流が 必要な生命現象において重要な役割を 担う。