生物多样性情报を活用した野生生物の分布予测

摘要

今から50年ほど前，東京都内にホタルはたくさん生息していたのか。 タイムマシンが開発されない限り，どんなに優れた研究者でも，時代をさかのぼって調査することは不可能である。この間いへの解答は，なかなか難しい。 地域の長老に過去を聞くこと。 それも一つの方法であるが，記憶の不確実性というリスクを伴う。 確実な方法は，博物館に蓄えられた標本を参照することだが，東京都全域で標本が残されているわけではない。他にも，当時の新聞記事や学術雑誌の記録を探せば，ホタルの情報が発掘されるかもしれない。 これらの断片的な記録を紡ぎあわせて，かつての分布を思い描くのが妥当なやり方であろう。 もう少し科学的に表現すれば，分布記録と地形条件や土地利用条件から統計的に予測モデルをつくり，分布確率を推定することになる。 失われた近過去の生態系を復元する唯一の手立ては，先達が蓄積してきた叡智と散在する自然の記録を統合し，最新の情報技術を駆使して自然をコンピューターシミュレーションすることだ。 最近になって，環境保全や自然再生，地球温暖化への生物応答などの環境問題に対する関心の高まりから，生物種の分布を予測する技法に注目が集まっている。