磁気秩序が誘起する強誘電

摘要

電子におけるスピンの自由度を電荷と結びっけ，両者を活用するスピントロニクスにおいては，現在までのところ遍歴する電子を有する強磁性「伝導体」の利用に重点が置かれてきている．例としては，磁性多層膜,Mn置換GaAsなどの希薄磁性半導体などが挙げられる。磁気的性質と電気伝導特性の間の相互作用は，これらの材料において比較的よく研究されてきた．しかしながら，電荷が局在した場合には，磁気的性質と電気的性質の相関が生み出す現象を利用しようとする応用へ向けた研究は多くはない。局在した電荷を使ったデバイスは，キャパシター，フラッシュメモリ，強誘電メモリ（FeRAM）など，現在のテクノロジーの中でさまざまなところで見受けられる．そこでスピントロニクス研究分野の次のターゲットとして，電気伝導性に代わり誘電性の磁場による制御（または磁性の電場による制御）という現象が最近注目を集め始めている．この現象は「電気磁気効果（magnetoelectric effect）」と呼ばれ，古くは19世紀末のピエール·キューリーの提案に端を発し，1960年代から1970年代にかけていくつかの先駆的な研究が行われた．電気磁気効果を利用すれば，電場（磁場）制御によって磁気（強誘電）ドメインをスイッチさせる新規のデバイスや光の偏光制御を電場および磁場で行うといった磁気光学素子などへの応用が期待できる。しかし，これまで研究されてきた材料における誘電-磁性結合はほとんどの場合極めて小さく,電気磁気効果を利用した応用例は現在までのところ皆無である．