中国農業の海外展開: 米中の戦略的視点から

摘要

中国農業の海外展開が着実に進展している。数字は統計上の分類に注意する必要があるが，手法も当初の直接的な農地買収からM&Aを通じたサプライチェーン上の重要な企業の買収や，株式取得による経営への影響力を及ぼす形に変化している。米国農務省の報告書では，中国の海外農業投資は一部の大規模な企業買収を除き，米国本土への直接投資は少なく，大半が近隣の中央アジア諸国や極東ロシア，さらに東南アジアなど，「一帯一路」構想に沿うものであることが示されている。アフリカや中南米への投資もあるが大規模ではない。このため，「警戒」はすべきだが，依然として中国はグローバル市場で必要な様々な技術·ノウハウを習得中であるとしている。中国の研究者の視点も基本的には同じだが，より具体的に将来構想を描いている点が異なる。将来に向けての四つの転換·目標，品目別自給率の下限，株式取得による買収と経営影響力行使，サプライチェーン全体のコントロール，そして中国独自の穀物メジャー育成などがその内容である。これらが実現された場合，国際市場にも少なからぬ影響が想定されるため.わが国も食料安全保障の観点から，一層の注視が必要である。