ヨーロッパの新たな船出

摘要

英国の離脱で欧州連合(EU)は初めて加盟国を失い，欧州統合が逆回転した。戦後一貫して拡大を続けてきたEUに失意をもたらし，欧州史に刻まれる政治イベントになったのは間違いない。ただ2つの点で世界秩序にも大きな影響を及ぼす。1つは成熟した社会のもとで安定をおう歌し，どちらかといえば「退屈な地域」と思われていた欧州が政治リスクの震源地になったこと。2つ目は多文化主義と国際協調という理想を掲げ，倫理観で世界をリードしてきた欧州にすら「自国優先」が忍び寄る危うい事態である。新型コロナウィルスという新たな危機を抱え込みながら欧州はどこへ向かおうとしているのか。国家は誰のもので何が目標か。保守的な白人キリスト教社会か，それとも多文化のリベラル社会か。対米•対中関係を含め，「世界における欧州」はどうなるのか。2010年代は経済危機（ユーロ危機）の時代だったとすれば2020年代はアイデンティティ一（帰属意識）の危機だと後世の歴史書に刻まれるかもしれない。2021年には長年にわたって欧州をけh引してきたドイツのメルケル首相が引退し，ブレグジッ卜後の「移行期間」も終わる。世代交代と政治地図の地殻変動が同時に押し寄せるという歴史的な局面にある欧州の未来 を考察する。