近赤外分光法による木質素材の測定: 留意点

摘要

近赤外分光法の最大の特色はやはり，試料を非破壊で測定できるという点であろう。この特色は，近赤外領域でのモル吸光係数が小さいことに起因する。しかし，「モル吸光係数が小さい」ということは裏を返せば，「光学系や測定条件がスぺクトル(およびスペクトルを用いた定量•定性分析)に及ぼす影響が甚大である」ということである。また，「試料を非破壊で測定できる」という長所は「試料の物理的性質が一定でない」という短所でもあり得る。光学系や測定条件および試料の物理的要因が及ぼすスペクトルへの影響を，スぺクトル前処理やケモメトリクスによって最小化出来ることはよく知られている。しかしこれらの統計的処理には必ず限界が存在する。また，統計のみに頼ると，「2.2測定条件：リファレンス測定」で示したような結論を導き出してしまう危険性が大きくなる。近赤外分光法を用いる上で最初に留意すべきことは，常に同じ条件でスペクトル測定ができるように準備することである。スペクトル測定条件や試料の物理的性質がスぺクトルに与える影響を把握し，その影響を最小化することが必要となる。本稿では，特にスペクトル測定条件に絞って，それらがスペクトルに及ぼす影響を逑べた。