スピンー格子結合

摘要

スピン間に働く交換相互作用は，ー般的には原子間の距 離に依存しないものとして考えられる。しかし，ある種の 磁性体においては原子間の結合長や結合角などに依存する 交換相互作用が現れ，これをスピンー格子結合と呼ぶ。こ のスピンー格子結合が重要な役割を果たしている最も有名な例として，スピン1/2の擬ー次元反強磁性体におけるス ピン•パイエルス転移が知られている。この転移ではー次 元の格子点上に局在するスピンが，格子を変形させ結合長 を交互に変化させることでスピン1重項を形成し，非磁性 状態になる。このとき，格子歪みによる弾性エネルギーの 増加に比べ，スピン系のエネルギーの減少が大きくなるた めに格子が歪む。これと同様に，今回紹介した三次元反強 磁性体の場合にも，スピンー格子結合により基底状態の縮 退が解かれ，ユニークな物性が生じる。