観光客を対象とした防災情報システムの動向

摘要

本稿では，災害時の観光客の支援を目的とした防災情報システムの最近の動向を紹介する.わが国は世界的に地震などの災害が多い国で，世界で発生するマグニチュード6以上の地震の2割強が日本で発生している.従来の防災は住民がおもな対象であり，住民票がベースであった.観光客•出張者や住民票を移していない下宿生などは政府•自治体や住民の関心外であった.そのため，その救助•支援についてはほとんど議論がなかった.阪神淡路大震災では，多数の観光客が被災したと考えられるが，その人数すら把握されていない.しかし2011年の東日本大震災において首都圏で515万人もの多数の帰宅困難者が発生したことが深刻な社会問題になったのを契機として，その重要性が認識され，注目されるようになった.最近では，海外からの観光客の大幅な増加や東京オリンピックの開催決定などの動向を受け，首都直下地震や南海トラフ地震などの巨大災害が発生したときに観光客をどのように守るかという観点から議論が盛んに行われている.しかし観光客を支接する側にまわる自治体，企業，住民も，問題意識は出てきたものの，具体策の議論になると意見の調整に困難をきたしている状況にある.観光客向けの防災情報システムについても，もともと情報系の防災研究者が少ないこと，企業にとってビジネスモデルが見えにくいこともあって，順調に整備が進んでいるとはいえない状況にある.しかし少しずつではあるが研究例は出てきている.