天敵や異種の情報の感知

摘要

自然界で生物が生き延びていくためには，周囲に存在する化学物質を感知し，それに応じて適切な行動とることが重要である.特に，捕食者や被捕食者など，異種の生物の情報化学物質を正確に受け取る能力の有無は死活問題である.生物の個体間で作用する情報化学物質のうち，同種個体間で受け取られるものはフェロモンであるが，異種個体に作用するものはァレロケミカルと呼ばれる.アレロケミカルは，産生および受容する生物の受ける影(響)によって，アロモン，カイロモン，シノモンに分けられる.アロモンは産生側が利益を得る物質である.例として，クモは，雌の蛾が用いる性フェロモンに似た物質を放出することにより雄の蛾を引きつけ，捕食することが知られている.カイロモンは産生側が害を被る物質である.例えば，テントウムシは，アブラムシが仲間に危険を知らせる警報フェロモンとして放出している物質を受容してアブラムシの位置情報を把握し，捕食する.そしてシノモンは，両者ともに利益を得る物質である.卵捕食寄生蜂は，マメ科植物がカメムシにより食害されたり卵を産み付けられたときに放出する物質を感知して卵を捕食する.つまり，マメ科植物が放出する物質は，植物自体と卵捕食寄生蜂の両者に利益をもたらすシノモンとなっている.