DNA多型マーカーによるヒゲナガカワトピケラの流域内移動分散パターンの評価

摘要

流域内の局所個体群間の繋がりは，各局所個体群の特性を理解し，流域景観スケールのメタ個体群の頑健性を維持するために重要な要素である。本研究は，宮城県中南部地域4水系の源流から下流の30地点に分布するヒゲナガカワトピケラ局所個体群の遺伝構造をAFLPマーカーで解析し，局所個体群間の移動分散パターンを評価した。地点間の遺伝距離（θ）に基づく系統樹の結果から，源流の7つの局所個体群が中流以降の大部分の個体群と異なる特殊な遺伝構造を有していることが明らかになった。ヒゲナガカワトピケラは，雌成虫が河道に沿って産卵遡上する行動が観察されているが，本研究の結果は，風分散により方向性を持たない成虫の移動が起きている可能性を示した。本研究により，局所個体群間の繋がりや移動分散パターンに関する理解を深めるツールとして，DNA多型解析は高いポテンシャルを有することが示された。