NanoSIMSにより基質の流れを可視化する: 未培養微生物のシングルセルレベルでの生理生態解析

摘要

NanoSIMS(ナノシムス)という装置をご存じだろうか?Nanometer-scale Secondary Ion Mass Spectrometry(超高解像度走査型二次イオン質量分析計)という元素や同位体の二次元分布を可視化する顕微鏡である。通常"顕微鏡"といえば光学顕微鏡,または電子顕微鏡を思い浮かべる方が多いだろう。上記顕微鏡では光や電子の透過や反射,あるいは蛍光など,光学的な濃淡を検出することにより対象物の光学的観察を行う。一方,二次イオン質量分析計(SIMS)は,観察試料最表面に一次イオンをぶつけ,スパッタリング現象によって表面の構成成分がはじき飛ばされて生じる二次イオンを質量分析することによって,試料表面の元素組成や同位体の組成を得る。このSIMSでは電子顕微鏡と同じように走査型と投影型という二種類の方法が考えられている。NanoSIMSは走査型二次イオン質量分析計であり,サブミクロンスケーがの超高空間分解能でのイメージング分析(空間的な分布情報の獲得)が可能という大きな特徴を持つ。日本には,筆者らの所属する海洋研究開発機構•高知コア研究所に設置されている装置を含め,4台が現存•稼動している。NanoSIMSはとくに宇宙化学分野で隕石や宇宙塵などの微小領域の同位体組成分析に活用されてきたが,水素や炭素,窒素などの生体構成元素の分析にも優れ,近年では微生物を含む生物分野での利用に注目が集まっている。