浚渫砂を利用した大規模干潟•浅場造成と今後の栄養塩管理の必要性: 三河湾を例として

摘要

内湾域における底層の貧酸素化は底生性魚介類の生息 を困難にし，漁業生産に深刻な影響を与えている。これ まで貧酸素水塊の拡大を閉鎖性海域特有の流入負荷増大にともなう富栄養化現象ととらえ，COD,総窒素（TN), 総リン（TP)の環境基準を定め,その達成のために陸域 における水質総量規制が1980年から35年以上にわたっ て実施されてきた。しかし，伊勢•三河湾では貧酸素水 塊の規模に減少傾向は見られていない。それは貧酸素化の主因が，高い水質浄化機能を有する干潟•浅場，藻場 の喪失にあったためであり，伊勢湾再生推進会議海域 部会（中部地方整備局）においても干潟•浅場，藻場造 成が最重要な施策と位置付けられている。三河湾におい てはすでに1998年から6年かけて水質浄化機能の回復に よる貧酸素化の抑制と二枚貝類漁獲量の増大を目的に620 haに及ぶ大規模な干潟•浅場造成事業を実施し，造成に 合わせて漁業者団体は局所的に発生する大量のアサリ稚 貝の全湾への移植放流を実施してきた。これにより愛知県のアサリ漁獲量は1万tから2万tに回復し全国一位 の漁獲量を維持•拡大することとなり，貧酸素化の状況 にも一定の歯止めがかかったと推測されてきた。しかし 近年餌料不足が原因とみられるアサリ資源の急激な低下 が起こり漁業者の危惧が増大している。一方，環境省で は水生生物の生息•再生産に対して直接的な影響を判断 できる指標として底層溶存酸素量（以下，底層DO)を 新たな環境基準として導入することを決定した（平成28 年3月30日「水質汚濁に係る環境基準についての一部を 改正する件」平成28年3月環境省告示第37号)。今回の 底層DOの環境基準設定に際し，その達成対策として従 来の水質汚濁防止対策だけでなく，藻場•干潟の造成や 深掘り跡の埋め戻し等の場の修復対策も組み合わせてい くことが示され（平成27年12月7日「水質汚濁に係る 生活環境の保全に関する環境基準の見直しについて（答 申）」），内湾における環境管理行政は転換点を迎えようとしている。ここでは，主として三河湾海域を事例とし， 貧酸素化の現状と水質の長期変化傾向を示し，大規模干 潟-浅場造成事業の内容および効果，あわせて現在まで の流入負荷削減の効果の有無や漁業生産への影響につい ても報告したい。