ネイチャー★ハイライト

摘要

過去5万年の北極全体における植生変化の歴史が明らかにされた。この研究では、植物と線虫のDNAの解析が行われ、およそ1万年前の植生に数多くの広葉草本(タンパク質を多く含む草本)が含まれていることがわかった。こうした植物は、かって北極を歩き回っていた大型動物(マンモス、ケサイ、ウマなど)の生活を支えるうえで大きな役割を果たしていたと考えられる。過去5万年間の植生変化の分析は、これまで主に化石花粉に基づいていたが、そうした記録は、イネ科型草本(イネ科牧草やイネ科アシ属、カヤツリグサ科スゲ属)など花粉を大量に産生する植物に偏る傾向があった。大型草食動物の生息を支える寒冷環境は、イネ科型草本が優占していると一般には考えられているが、E.Willerslevらが新たに収集したデータは、この考え方に疑問を呈している。Willerslevらは、放射性炭素年代測定された永久凍土の試料から採取された植物DNAの塩基配列を解読、解析した。その結果、花粉分析では容易に同定できない植物群集に関する知見が得られた。彼らはまた、線虫の多様性を探索して、植被に関する手がかりも得た。今回の成果で、かって大型哺乳類の生活を支えていた生態系の全容が明らかになった。およそ1万年前までの植被の大部分を占めていたのは広葉草本であるが、多様性は約2万5千〜1万5千年前に著しく低下していた。1万年前というのは、多くの北極の大型動物相が絶滅したときであったが、その後は、木本植物とイネ科型草本が繁栄した。このことから、Willerslevらは、イネ科型草本と広葉草本の両方が大型動物相の主たる食餌であったと推測している。