将来のクロマグロ養殖産業を支える完全養殖技術

摘要

近畿大学水産研究所（以下，近大水研）が初めてクロマグロの飼育技術開発に着手したのは，1970〜1972年にかけて行われた水産庁大型プロジェクト「有用魚類大規模海中養殖実験事業」における「マグロ類養殖技術開発企業化試験」に始まる.1969年に海洋科学技術審議会によって「海洋開発のための科学技術に関する開発計画について」の答申が行われ，それを受けて第1次実行計画案の中の「資源培養型漁業開発のための研究」課題のひとつとして，「有用魚類大規模海中養殖実験事業」があった.この課題は，「我が国内外において需要が大きいのに，種々の事情から漁獲高の増大が困難な有用魚類について，とりあえず，現在までの研究成果を基礎にして，実験設備を用いて養殖の企業化のための実験事業を行う」ことを目的としていた.本課題の小課題のひとつが「マグロ養殖技術開発企業化試験」（以下，マグロ企業化試験）であった.研究内容には大きく2つの目標があり，(1)天然親魚から人工授精により採卵し，種苗生産技術を開発すること，(2)幼魚（クロマグロの幼魚はヨコワと呼ばれている）を活け込み,育てる短期養殖技術の開発であった.しかし，事業の最終的な目標は，大型マグロ，特にクロマグロにおいて親魚養成（人の管理下において卵を採るために成魚を飼育すること）から採卵，種苗生産による養殖と種苗放流の実現にあった.