パルスウォータージェットメスを用いた精密手術用治療器

摘要

最大限の病変摘出は生命予後の改善に，細血管の温存による機能温存は術後の生活の質に大きく影響をおよぼすことから，手術用治療器ではこの二つの要素の両立が望ましい.その一方で，超音波手術器，電気メスなど，既存の手術用治療器において熱損傷は不可避であり，超音波手術器では，一定以上の径を有する血管を温存可能であるものの(組織選択性)(図1),細径の血管の温存に際しては，高度な技術と解剖学的知識を要する.したがって，既存の手術用治療器を用いての最大限の病変摘出と機能温存の両立は必ずしも容易ではなく，"職人芸"によるところが大きい.ウォータージェットメスは水流の照射により組織を線状に切開，剥離，あるいは，体積をもつ塊として破碎する手術機器である.熱損傷がなく，高い組織選択性を有する点で，超音波，電気を用いる現在主流の手術用治療器とは一線を画する.こうした特性は早くから注目され，1980年代から手術機器として臨床応用されてきた.従来のウォータージェットメスは定圧駆動の連続流を使用しており，細血管からの出血に難渋する肝切除術，脳腫瘍摘出術を含め欧米の一部施設で使用され，有用性が報告されてきた.その一方で，連続流を用いたウォータージェットメスは小型化に限界があるために，ロボット，内視鏡，カテーテルといった低侵襲機器への導入が容易ではない点，照射流量の多さから生じる安全性，操作性の問題点(飛沫による播種や医療従事者の感染のリスク，術野内での気泡発生や余剰水分による視野の悪化，微調整が必ずしも容易ではない)から，必ずしも普及していない.