『失敗例と成功例から見る』エンプラ工業史つかみたい明日へのヒント7．ポリカーポネート（PC）失敗からの教訓－“市場は育ての親である”

摘要

失敗学を寸是唱された畑村洋太郎教授は，技術的な失敗について次のように述べられている1）．「過去の成功体験から学んだことは，単に成功例を物まねすることになるため，考える習慣がなくなり未知の問題に遭遇したとき対応できなくなる．また，小さな失敗を不用意に避けることは，将来起こりうる大きな失敗を準備していることである．失敗の原因を考え同じ失敗を繰り返さないようにすることによって創造的発明につながることなど，過去の失敗例を活かすことが失敗学の基本的な考え方になっている．ある失敗を次の失敗の防止や成功の種に結びつけるには，失敗が起きるに至った原因や経過を正しく分析した上で知識化して，誰でも使える知識として第三者に情報伝達することが重要なポイントである」　さて，ポリカーボネート（PC）が我が国の市場に登場してから，はや半世紀が経過しようとしている．この間，技術開発や市場間発を担った人も大きく世代交代しており，過去にどのような失敗を繰り返しながら今日の発展を迎えることができたか，その経緯を知らない人も増えていると思われる．PCが使われ始めた初期においては，いろいろな失敗を積み重ねながら技術開発や市場開発を進めてきた．しかし．その内容が複雑化するとマニュアル化して次の世代に伝える．その場合，過去にどのような失敗があってマニュアルができたか伝わらないことが多い．更に，マニュアルがあると常識となり，関連する基礎的知識は忘れ去られることにもなる．このような状況の中で世代交代すると，次世代の技術者は未知の問題に遭遇すると対応力がないため，同じ失敗を繰り返す可能性がある．　筆者は長年にわたりPCの技術開発や市場開発に関与してきた．本稿では， PC事業の発展の経緯を振り返り，その過程において体験した失敗とそれらを克服する技術，及びそれから得られた教訓などについて述べることにする．