原子核時計の実現に向けて

摘要

トリウム（Th)の同位体Th-229の原子核準位には、基底状態からわずか8.3eVという異常に低いエネルギーに準安定状態があります.8.3eVは、波長に換算すると149nmの真空紫外波長であり、レーザーを作ることのできるエネルギーです.すなわちTh-229は、レーザーで原子核を直接励起できる、現在知られている中では唯一の元素です.この原子核遷移の共鳴周波数にレーザー周波数を安定化すると、極めて精度の高い周波数標準が実現できると期待されています.原子核はまわりを電子で遮蔽されているため、原子核遷移の共鳴周波数は外場の影響を受けにくいからです.本稿では、原子核時計とよばれるこの周波数標準の実現に向けたTh-229研究の最前線を紹介します.