「民主化する建築」を切り拓くリノベーション

摘要

リノベーションのこれまでとこれからについて書いてほしいというのが編集部からの依頼だったが.まずは，リノベーション界のフロントランナーたちとの出会いを，私的回想として書き記しておきたい.1990年代半ばあたりまで「リノベーション」という言葉は使っていなかつたが，該当する活動領域についての関心は，オルセー美術館のような歴史的建造物の保存·再生系のものを除けば，当時はっきりしたものではなかったと思う.私自身は1995年に欧米の研究者や村上心(椙山女学園大学教授)さんたちと一緒に，既存集合住宅のリノベーションの国際比較研究を始めたが，当時日本には欧米の大掛かりな事例と比較できるような実例がなかった.そんな中，1990年代終わりに「リファイン建築(現在はリファイニング建築)」と称して九州で大掛かりなリノベーション設計を手掛ける人がいることを知った.編集者の石堂威さんの紹介でその人，青木茂さんとお会いしたのはその頃だと思う.まだ孤軍奮闘の時代だったが，青木さんは既に，構造躯体を徹底的に軽量化した上で必要な耐震補強を施し，外装や設備は一新することで，建物用途も変えてしまう独自の手法を確立しつつあった.