温度により濡れ性が変化するインテリジェント布帛の電子線グラフト重合による調製

摘要

従来の機能性繊維は，付与された機能を恒久的に発現するのみであった.近年，次世代の機能性繊維として，環境に応じて性質が変化したり，機能を発現したりするインテリジェント繊維が注目されている.例えば，人が衣服を着て汗をかいたとき，温度が低ければ布の吸水速度が高くなり，衣服と皮膚間の水分を速やかに吸い取り，湿度を低く保つことで快適な着心地を保つ.一方で，温度が高くなったとき布の吸水速度が低くなれば，衣服と皮膚間に汗を液体として適度に残存させ，気化熱や熱伝導により皮膚を積極的に冷却する.冷却され温度が低くなれば，再び布の吸水速度が高くなり，衣服と皮膚間の湿度を低く保つことで快適な着心地を取り戻すとともに汗冷えを予防する.温度に応じて吸水速度が変化する布を調製できれば，このようなインテリジェントな衣服の設計が可能となるだろう.本稿では，電子線グラフト重合により，ポリエステル（ポリエチレンテレフタレート）布の濡れ性に温度応答性を付与した事例を解説する.