アンコール遺跡バィョン寺院の安定化と修復·保存のための地盤工学

摘要

アンコール遺跡は、9～15世紀にインドシナ半島領域に版図を広げたクメール民族アンコール王朝の栄華の残像であり、主に現在のカンボジア西部にあるトンレサップ湖の北側に多くの寺院や遺構が存在する。カンボジアのクメール文明遺跡群の中でもアンコール·ワットと双璧をなす遺構であるバィヨン寺院は、12世紀末〜13世紀初頭にアンコール王朝の治世者であったジャヴァルマン7世によりー辺3kmの城壁に囲まれた王都アンコール·トムの中央に建立された。ピラミッド型と称される高く急峻な基壇を有する寺院の中心に建っているのが中央塔群である。中央塔群は高さ約10mの版築と呼ばれる盛土の上の中央テラス上に配置され、周囲の地面からの高さが43mに達する砂岩による組積造の塔状建築である中央塔の周囲に8基の副塔が巡らされている(写真1)。建設から現在にいたる約800年間にさまざまな要因と作用によつて石材の劣化や石積擁壁の孕み出しや目地開きといった変状が進み、塔の傾斜や部分的崩壊の危険性が指摘され早急かつ恒久的な対策が求められている。本稿では、バイヨン寺院の安定性に大きく寄与する基壇盛土に対する地盤工学見地からの調査結果を紹介するとともに、バイヨン寺院の安定化と修復.保存に向けた今後の展望について述べる。