特集「大電力電気推進が拓くオール電化衛星」について

摘要

2015年3月に打ち上げられたEutelsat 115 West Bと ABS-3Aが1カ月ほど前倒しで静止軌道に到達し，大幅な 打ち上げ費用の削減が可能なオール電化衛星が実証され た.これを受けて，今後の静止軌道への投入において電気 推進機を用いるオール電化衛星の流れは加速していくと予 想されている.電気推進機は，小惑星探査機「はやぶさ」で実証された ように，従来の化学反応を利用したロケット推進と違っ て，太陽電池からの電気工ネルギーを利用したプラズマ推 進であって，静電力や電磁力を利用できるため，比推力を 一桁以上大きくすることが可能であり，大幅な推進剤の低 減が望め，衛星の小型化の促進や大型衛星の高効率化が期 待できる.このため，日本においても，電気推進機の開発 は古くは技術試験衛星Ⅲ型（ETS-Ⅲ)から脈々と続けられている.このような積み重ねにより，オール電化衛星へ の備えが整いつつある.実際に，日本で開発されたホールスラスタは，欧米で開発が進められている推進機と比肩す る性能を示している.オール電化衛星は高ハイスループットの流れともリンク して，我が国の静止通信衛星が国際競争力を持っためには 必要不可欠であり，その全体像を把握し，衛星システム全 体を俯瞰的に認識することはきわめて重要である.そのた め，オール電化衛星の長所短所，構成要素の解説，各国の 動向および日本における現状，さらに将来への展望を一つ の特集としてまとめることにより，必要な研究ストーリー を日本の航空宇宙関係者で共有でき，様々な立場の技術 者·研究者の相互理解にも役立つのではないかと期待し， 本特集を企画した.本特集は様々な所属の著者に執筆を依 頼しており，産学官のそれぞれの視点から読者に紹介する ものである.最後に本特集は，2016年9月開催の第60回宇宙科学技 術連合講演会にてオーガナイズドセッション「大電力電気 推進が拓くオール電化衛星」での講演から構成したもので ある.