臨床診断における超音波技術の基礎と最新動向

摘要

2020年は新型コロナウイルス（COVID-19) が世界的な流行であるパンデミックを引き起こし，WHOによれば2020年7月10日現在で全世界の累計約1,000万人が感染し，その内の約50万人が亡くなつている。2003年に流行した重症急性呼吸器症候群（SARS: severe acute respira-tory syndrome)の感染者が約8,000人，死亡者が約800人であった。2012年にアラビア半島から始まつた中東呼吸器症候群（MERS: Middle East respiratory syndrome)は2019年までに約2,000人以上が感染し，推定約800人が亡くなった。いずれもコロナウイルスが病原体であるが、これらの感染者数と死亡者数に比べても今回のCOVID-19の脅威は桁違いであることが分かる。COVID-19の特徴は風邪の症状から始まり，肺炎を併発し，急速に悪化して死に至ることである。すなわち，肺炎の進行診断が感染者の治療において欠かせない。CTは肺炎診断の最も重要なアブローチであるが、病院での保有台数は限られており，患者数が増大すると運用に支障を来すため，べッドサイドで使える超音波診断装置はそれを補完する医療技術と位置付けられる。一方，臨床診断で用いられる超音波の周波数は2MHz以上である。この帯域における超音波の空気中伝搬減衰は極めて大きいため，空気を含む肺細胞組織を透過せず，診断には不向きと考えられ，日本ではあまり普及していない。幸い日本では医療崩壊は避けられているが，今後第2波以降の動向によっては患者数の増大に伴い超音波診断の重要性が再認識されると考えられる。本稿では，超音波診断装置の基本的なイメージング手法である，パルスエコー法と画像分解能向上のためのビームフォーミングを示すと共に，超音波の非線形性を利用したハーモニックイメージングを示す。また，血流計測として利用されるパルスドプラ法を説明し，超音波造影剤を用いたコントラストエコー法による肝臓がhの良悪性鑑別診断を示す。そして，COVID-19感染者の診療において重要な肺炎の進行診断について，その特徴的な画像を示す。最後に，今後の超音波診断の動向を俯瞰する。