文化財建造物の室内環境と障壁画の経年劣化: 水戸偕楽園内好文亭奥御殿を事例として

摘要

今回の調査研究から好文亭奥御殿障壁画は、温湿度変化や日光の直射により本紙に大きな負担がかかっていると推測された。太陽光、とくに紫外線による影攀については、直接的な要因とは言い切れないが、大きな影響を与えている要素のひとつであった。紫外線の室内への照射は、東側に開口部を持つ室に対して、午前中を中心に高い数値を示していた。現在開館の1時間前に雨戸が解放されているが、照射量の積算により、雨戸の開放を1時間遅らせることで一日の照射量のうち、1割程度の削滅が見込まれた。また、明障子を介することで紫外線照射量は3分の1程度となる。入側の間では、澳の南側の明障子を閉めることで襖への日光の直射が避けられ、公開活用に影響がない。ともに小さな数値ではあるが、保存環境の改善の第一歩として、始めやすい部分であると考える。力ビについてはその生態に関する研究も多く、計測した温湿度環境との関連が明確で、保存対策としての改善すべき点は明快である。高湿度を示した各室は空気の流通が少ないと考えられる。活用の妨げとならない範囲で襖を開けて風を通す時間を設けるだけで、多少の空気環境の改善が見込まれる。先に示した紫外線照射量の軽減とともに日常管理の軽微な変更で保存環境を改善できる部分である。しかし、紫外線と湿度の影響以外は、劣化損傷の進度の傾向や現状を把握するにとどまった。経年劣化の機構の解明には、異なる環境の事例との比較検討や環境以外の劣化損傷要因の分類、他の文化財建造物での類例調査などから、環境的要因の再整理を行う必要があると考えられる。それらを検討したうえで、劣化損傷要因を解明し、保存管理手法の改善策を提案することを今後の課題としたい。%This research considered influence of indoor environment about how aged deterioration of panel painting is advancing in the inside of a cultural property building. As a result, it turned out that the panel painting of the Kobuntei-okugoten was subject to strong influence from environment which is high humidity and the ultraviolet rays by sunlight. However, aged deterioration of a panel painting resulted in the conclusion that it was subject to big influence also from maintenance and directions for use. Therefore, containing the other degradation factors is future issues.