第3回 老人の首都圏追放策批判

摘要

日本創成会議が首都圏の高齢者の地方移住を提唱している。その主張はつまるところ，こういうことのようだ。「2025年までに東京圏の介護需要は5割も増える。その結果，圈域内の介護施設不足が深刻化する。施設自体もそうだが，介護要員の若い世代を東京圏が吸い上げ，"地方消滅"が加速する。首都圏の高齢者に地方に移住してもらうのが一番だ」。日本の高齢者は基本的に持ち家住まいだ。首都圏の地価は高く，けっこうな資産額になる。一方，地方の地価は桁違いに安いから，移り住むことで，地価の差額を手にすることができ，地方移住後の生活費に回る。移住希望者は，新たな土地で自分らしい暮らしを再発見したい人だろう。移住を機にアドレナリンが活性化するし，田舎では70歲くらいは「若い衆」扱いだから，老け込む速度も遅くなる。機械的な将来推計よりも，介護施設の必要数は少なくなろう。高齢者の地方移住政策は，介護に要する社会的費用を軽減する。問題は移住後の新たな人間関係の構築だが，その支援にはカネはかからない。